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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)242号 中間判決

原告 大島正光 ほか四名

被告 本郷税務署長 ほか一名

訴訟代理人 真鍋薫 丸森三郎 ほか二名

主文

1  被告本郷税務署長が原告大島正光、同大島正義、同大島正久、同大島正夫の昭和三九年分及び昭和四〇年分の所得税についてした各更正並びに各重加算税賦課決定に係る通知書の送達について違法はない。

2  被告小石川税務署長が原告大島正行の昭和三九年分及び昭和四〇年分の所得税についてした各更正並びに各重加算税賦課決定に係る通知書の送達について違法はない。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告らの請求原因一の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで本件通知書が原告らに対し送達されたかどうかについて判断する。

(一)  原告大島正光関係

〈証拠省略〉を合わせると、

被告本郷税務署長の係官渡辺秀雄、同下福透は、昭和四四年三月一五日原告正光に係る本件通知書を原告正光に送達するためこれを携行し、文京区千駄木三丁目三番一三号の同原告宅へ赴いた。しかし、旋錠がしてあり(この点は当事者間に争いがない。)、ブザーにより数回呼出しをしたが何ら応答がなく、不在であると認められたため、隣家の田中幸子に立会を求めたうえ、同日午前九時四六分同原告宅通用門左側の郵便受箱(同原告が同所に郵便受箱を設置していたことは、当事者間に争いがない。)に右通知書を差し入れ、差置送達を了したことが認められる。

〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  原告大島正義関係

〈証拠省略〉を合わせると、

前記渡辺秀雄、下福透の両係官は、昭和四四年三月一五日原告正光に対する本件通知書送達終了後、原告正義に係る本件通知書を原告正義に送達するためこれを携行し、文京区千駄木一丁目一五番一五号の同原告宅へ赴いた。しかし、旋錠がしてあり(この点は当事者間に争いがない。)、ブザーにより数回呼出しをしたが何ら応答がなく、不在であると認められたため、隣家の伊藤秀に立会を求めたうえ、同日午前一〇時一七分同原告宅通用門右側郵便受箱(同原告が同所に郵便受箱を設置していたことは、当事者間に争いがない。)に右通知書を差し入れ、差置送達を了したことが認められる。

〈証拠省略〉 のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(三)  原告大島正久関係

〈証拠省略〉 を合わせると、

前記渡辺秀雄、下福透の両係官は、昭和四四年三月一四日原告正久に係る本件通知書を原告正久に送達するためこれを携行し、同日午後五時頃文京区本駒込六丁目二〇番一一号の同原告宅へ赴いた(税務署職員が同原告宅に来訪したことは、当事者間に争いがない。)。インターホーンにより呼出しをしたところ、同原告と同居している長男淑弘(当時一四才)が通用門に現われ(同日同原告宅には当時一四才の長男淑弘が在宅していたことは、当事者間に争いがない。)、同係官の問いに対し、同原告も母も不在であること、淑弘は同原告の長男で年令一四才、中学二年生であることを答えた。同係官は持参の用紙に「淑弘」の氏名を書き留めてもらつてこれを確認したうえ、右通知書の受領方及び送達記録書に署名を求めたが、淑弘が署名を拒んだので、書類の内容が右通知書であることを告げ、同原告に確実に交付するよう依頼したうえ、同日午後五時一〇分右通知書を淑弘に交付し、同人はこれを受領したことが認められる。

〈証拠省略〉 中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、淑弘は原告正久の同居の親族で書類の受領について相当のわきまえのあるものに該当すること明らかであるから、本件通知書は、昭和四四年三月一四日同原告に適法に送達されたものというべきである。

(四)  原告大島正夫関係

〈証拠省略〉 を合わせると、

前記渡辺秀雄、下福透の両係官は、昭和四四年三月一四日原告正久に対する本件通知書の送達終了後、原告正夫に係る本件通知書を原告正夫に送達するためこれを携行し、同日午後五時三〇分頃文京区本駒込五丁目六七番九号文京アパート四〇一号室の同原告宅へ赴いた。しかし旋錠がしてあり(この点は当事者間に争いがない。)、入口扉をたたいたが応答がなく不在であると認められたため、同アパート管理人室に居合わせた南西貿易株式会社社員高橋慎一に立会いを求めたうえ、同日午後五時四五分右通知書を同室の入口扉の左手に備え付けられていた同原告の郵便受箱に差し入れ、差置送達を了したことが認められる。

〈証拠省略〉 のうち前認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(五)  原告大島正行関係

〈証拠省略〉 を合わせると、

被告小石川税務署長の係官金田貢は、昭和四四年三月一四日原告正行に係る本件通知書を原告正行に送達するためこれを携行し、同日午後三時二〇分頃文京区大塚六丁目一五番二号中田錬之助方の二階を借家している同原告宅へ赴いた。同原告宅へは中田宅の向つて左側の通路の奥にある引き違い戸のついた門を通り、二階へ通ずる階段を登つて玄関の入口扉に達するのであるが、門には「大島」の表札及び郵便受箱が備え付けられていた。しかし、同原告宅は不在であつたことから、金田は一たん帰庁したうえ、同日午後五時五分係官小川悠治を伴い再度同原告方へ赴いた。玄関の入口扉をたたいたが依然応答がないため暫時同原告宅の動静を監視していたが、帰宅する気配がないので、同日午後六時三五分、本通知書を郵便受に差し置く旨記入した付せんを右通知書の在中する封筒に貼付したうえ、これを前記郵便受箱に差し入れ、差置送達を了したことが認められる。

〈証拠省略〉 のうち前記認定に反する部分は前掲各証拠に対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

なお、原告正行は、同原告に対する送達は「中田方」大島正行宛にされるべきであるのに同所に送達されたものではないと主張する。

しかしながら、前認定のように当時同原告は中田方の二階を借用して居住していたものであるが、中田方とは世帯を別にし、出入口も別個であり、同原告の郵便受箱に現に差置送達がされている以上、同原告に係る本件通知書は同原告の住所に送達されたことが明らかであるから、送達場所に何らの誤りはない。よつて同原告の主張は理由がない。

(六)  以上認定したとおり、本件通知書は、原告正光、同正義に対しては昭和四四年三月一五日、同正久、同正夫、同正行に対しては同月一四日いずれも送達されたことが明らかである。

三  原告正久を除くその余の原告らは、国税通則法第一二条第五項第二号の規定が送達を受けるべき者不在の場合にも差置送達を認めている点について、同号は独善的便宜主義的規定であつて国民主権主義、法の下の平等、基本的人権尊重主義を定める憲法前文、第一一条、第一三条及び第一四条の規定に違反すると主張する。

しかしながら、租税の賦課徴収に関する処分は大量かつ反覆して行われるから、簡易迅速にその処分を送達し、処分の効力を生じさせる必要があるのみならず、租税の賦課権については除斥期間(国税通則法第七〇条、第七一条)、徴収権については消滅時効(同法第七二条)が規定されているから、送達を受くべき者がたとえ不在であつても、送達の効力を生じさせる必要がある。けだし、もし全戸不在の場合に送達ができないとするならば、不誠実な納税者をして法定の納税義務や課税の徴収を免れしむる結果を招来する虞があり、かくては賦課、徴収の公平を図ることは困難となり、かつ租税収入を確保することができなくなるからである。また、同法第一二条第一項の郵便による送達では送達の効力発生時点について争いを生ずる余地がある(同条第二項参照)。同法が郵便による送達のほかに受送達者不在の場合の差置送達を認めているのは、まさにこれらの要請にそうものであつて、合理的な方法というべきである(なお、地方税法第二〇条第三項第二号も同趣旨の規定である。)。

原告は民事訴訟法第一七一条第二項の規定と比較して国税通則法第一二条第五項第二号の規定を論難する。なるほど民事訴訟法においては、受送達者不在の場合には差置送達を認めていないが、これに代わるものとして書留郵便に付する送達を規定しており、その場合には郵便の発送の時に送達の効力が生ずるものとされている(同法第一七二条、第一七三条。なお、これらの規定は刑事訴訟法第五四条において準用されている。)から、民事訴訟法においても、刑事訴訟法においても、国税通則法と同様の配慮が加えられているというべきである。

したがつて、国税通則法第一二条五項第二号は右のような必要性と合理性から規定されたものであつて、原告らの非難は当を得たものではなく、同号が原告らの主張するような憲法の諸規定に違反しないことは明らかである。原告らの右主張は独自の見解であつて到底採用できない。

四  よつて、民事訴訟法第一八四条前段に則り、主文のとおり中間判決する。

(裁判官 三好達 時岡泰 青柳馨)

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